「…あ、ゼンの……」

僕の前に突然現れたのは、僕の大好きだったゼンの妹だった。笑っている顔に見覚えがあると思ったが、それはゼンに似ていたからか。ゼンが女装したかに思わせるくらい、彼女はゼンにそっくりだった。

「…貴方、ゼン兄ちゃんと仲よかったらしいじゃん。名前なんてーの?」
「……草野晴斗」
「んじゃあ、そーちゃんね!」
「え?」
「草野の草から取って、そーちゃん。悪くないでしょ?」


そう言って、彼女は微笑んだ。僕はその笑顔に吸い込まれるように、見入っていた。その時、彼女の手から封筒のようなものを手渡される。僕はそれを受け取った。


「兄ちゃんからの手紙!あんたの名前書いてあったから、届けにきた」


封筒からは、今でも覚えているゼンの匂いがする。僕はそれを黙って握りしめた。ゼンが最後に残していってくれたもの。


「じゃあ。私帰るね。…また来るかも!」


そう最後に言い残して、彼女は足早に病室を出ていった。