「いいよ」


女の子が差し出すカッターナイフを、あたしは起き上がって受け取った。


「ありがとう」


あたしはカッターナイフをそっと指でなぞった。

薄れかけた名前シールが貼ってある。

『前園 美咲』


「ミサキちゃんって言うんだ。きれいな名前だね」


「ありがとう。お母さんが名前をつけたんだって。お姉さんの名前はなんて読むの?」

美咲ちゃんはベッドの名札に目をやって言った。


「ハルカ。その字は『遥か遠く』のハルカだよ」


そう

昔、名前を漢字で書く練習をした時にショウ君がそう教えてくれた。


結局、あたしは遥か遠くまで行くことは出来なかったけれど。