精霊達の棲家

前者は利き腕(痺れの軽い方)を肘掛けに添えると、身体を支える・移動・座る、の動作が比較的スムースに運ぶ。
「ほら 一・二・三 、ねっ解った!! 」
我が娘よりかなり若いにも拘らず、さも母親の如く振舞うその姿は妙に大人っぽく気持ちを癒してくれる。
笑みを湛えて彼女が動作を繰り返す。
「ほらっ、やってみて。もう一頑張り!! 」
患者の麻痺や機能障害を理解した上で、恰も幼鳥が成長し巣から飛び立つ際、親鳥の‘促し行為’にも似る。
バランス感覚が崩れた我が身にとって、立位が省ける事は九死に一生を得る様なものだ。
「一週間以内にマスターする」
彼女と約束をした。

リハビリでは座位から兎に角安定して立ち、本来の目的である歩行に移る。
歩行動作の第一歩は全てここから始まるのである。
車椅子は歩行のための過渡的な手段でしかないが、一方で眼前のハードルでもある。
これを越えなければ、次に進めないのも事実である。