いよいよ退院の日、身辺整理・片付け・手続き・挨拶を終えたが、取り立てて感慨はない。
過去十指に及ぶ入退院を経験したが、怪我や疾病によるものでその殆どが手術を伴うものであった。
入院時の苦痛・悪感・重圧感等から解放され、回復を道連れにして退院を迎える。
そして快復の証は、リアリティーの伴った実像であり、当然のことながら心身一体であった。
脳卒中→脳梗塞→脳幹神経の壊死、神経と言う実体のない虚像。
身体の‘個々の機能’は一瞬にして消失するものではないが、
‘個々の機能’を制御する神経系が破壊されたのである。
いわば「糸の切れた凧」の如し、である。
制御をつかさどる糸は、修復可能なのか!! 
快復の見通しは定かではなく出口の見えない退院は、過去には一度も無く複雑な心境でもあった。
方程式のない‘焦り’と、奇跡的な快復という‘願望’との狭間で、揺れ動く心情の先に不安が過ぎる。