踏切を渡った先、
空き地に生えている花が、とても綺麗だった。
名前も知らないその花を指さすと、
兄様も微笑んで、そして繋いでいた手が、離される。
『摘んであげようか』
そう唇が動いて、私の先を歩き出した。
茎に手を伸ばす、その行動を見つめながら、私も踏切を渡っていく。
夜空に浮かぶ花も、華やかで綺麗だけれど、ああいう花も好き。
摘むのは少し、勿体ない気もするけれど、
私のためにとしてくれているから。
それはとてもとても、嬉しい。
机に飾ろうか、それとも、押し花にしようか。
しおりにして、本と一緒に持ち歩ければいいかも。
そんな事を考えていると、
手折った花を持った兄様が顔を上げて、
そして私の方へ振り返った。
瞬間、とても、驚いたような顔をして。
そこで、彼女の記憶は途切れた。
あとは何も浮かばない。
そして俺はようやく気付いた。
彼女の記憶に、音がひとつも無い事に。
少女の耳は、聞こえていなかったんだろう。
そして踏切は、故障していたんだろうか。
だから彼女は、しおりを作る事も、
花火を見る事も、出来なかったんだ。



