* * *

その頃。

「クソッ!」

拳で机を強くたたいた瞬間、ガタガタと音を立てて、机から資料が滑り落ちた。

「――黎…」

彼女の名前を呟いた後、写真に視線を向けた。

優しい笑顔の彼女は、黎である。

「君は僕のものなんだ、そうだろ?」

写真の彼女に話しかける。

実物ではないから、答えてくれないけど。

――先生、助けて…!

――私、死にたいんです…

あの出来事を忘れる訳がない。

忘れてしまったら、彼女の恋人失格だ。