* * *

「ただいま電話に出ることが…」

流れてきた機械音に、スマートフォンを耳から離した。

「何で出ない?」

チッと舌打ちをすると、ウイスキーの水割りを喉へ一気に流し込んだ。

本棚に――正確に言うならば、その真ん中に飾ってある写真立てである――視線を向けると、
「――黎…」

彼女の名前を呟いた。

腰まである長い黒髪に、聖母マリアを連想させるような優しい笑顔が素敵だった。

写真立ての中にいる彼女は、自分に向かって微笑んでいる。

今日のことなど、まるで覚えていないと言うように。

その彼女に向かって、
「――君は、僕のものだから…」
と、呟いた。

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