時間は、夜の10時を回っていた。

「――ここであっているんですよね?」

「――ええ、間違いありません」

僕の問いに、彼女――前田さんは首を縦に振ってうなずいた。

「住んでいるところは変わりません」

そう言った前田さんに、僕は目の前の家を見あげた。

表札には、“中條”の文字が書いてあった。

「それにしても、ビックリしました。

前田さん、あなたが中條の別居中の奥さんだったなんて」

僕は言った。

前田咲子(マエダサキコ)――本名・中條咲子(チュウジョウサキコ)は、『橋爪クリニック』で事務員として働いてた人で、探偵だとウソをついた僕たちの事情聴取に答えてくれた人だ。

そして、別居中の中條の奥さんでもある。