黎は重たそうに唇を開いた。

「実は…わたし、夜に眠れないんです」

「眠れない?」

そう言った黎に、中條は首を傾げた。

「元から寝つきが悪かったから、あんまり気にしてないんですけどね」

黎が笑った。

中條は感じていた。

彼女の笑顔は距離を置こうとしているように思えた。

微笑むことで周りから離れようとしていると、中條は気づいた。


それから1週間後のゼミの終わりのことだった。

「『橋爪クリニック』ですか?」

黎は首を傾げた。

「僕の幼なじみが院長を務めている心療内科の病院なんだ」

中條は言った。