私は顔を上げ、相手の顔を見て立ち上がった。

―――ナズナさんだったからだ。



「先日は、ありがとうございました…」



「こちらこそ。まさか、貴方が悠の彼女だと思わなかったわ」



笑顔が怖い。

天使の微笑みだった筈なのに。

今は悪魔の微笑み。

空気が張り詰め、ナズナさんの肩越しに、こちらを心配そうに見てる悠さんが見えた。



「貴方、海さんだったかしら?」



「はい…」



「悠に似合う香りも迷うような人が、彼女だなんて、信用ならないわね。
私はすぐにピンと来たわよ?」



だから、何だと言うのだろう。

でも、言い返せないのは強がりと、悠さんの大切なお客さんだとわかってるから。