「ほら、西村。

次からはリストバンドは外しなさいよ?」

体育の授業が終わったとき、先生がそう郁に注意した。


それが聞こえた瞬間、なぜかわたしの心臓はとくりと跳ねて。


「えーっ!

仕方ないなあ、もー」


そう言って郁は
わざとらしく眉を下げて


するりとピンク色のリストバンドを外したのだった。


あぁ、やっぱりだ。



見なければよかった。



どうして、そんなこと。




「あはは、これね」

すると
なにも言っていないのに、郁は私を見て笑う。


「ケガ、しちゃったの」



小さな声でそうつぶやくのが聞こえた瞬間

私は思わず郁のことを睨んだ



「信じらんない」



「え?」


「うそばっかじゃん。なにそれ。


意味わかんないんだけど


郁って、私になにひとつほんとのこと話してくれないんだね」


「えっ、かおりん…?」


「それ、先生に見られたらまずいんじゃない?

早く着替えてきなよ」



「ねぇ、かおりんってば…」


それのどこが?


それのどこがケガだっていうの?


十字についたその傷に


意味がないわけがないのに。



「かおりん…!!」



私を呼び止める声が聞こえたけれど、私は着替えを手に持って


ひとりでトイレへと向かった。


哀しくなんて、ない


ないはずなのに



視界がぼやけるのは
どうしてなの?