そう聞こえてきて、思わず私はあたりを見渡した。
まずい
前の席が、空いてる
そして強く目を閉じた。
お願いだからこの席じゃありませんように…!
郁(いく)という女の子は
私とは世界が違う
だからこそ、関わりを持たないほうがいい
平凡な生活が、なくなってしまうから。
強く強く願っていたのに、
そんな思いはあっけなく打ち砕かれた。
椅子をひく音が、すぐそばで聞こえたからだ。
「あれー?藤原香織って読むのー?」
「えっ…?」
「郁ねー、これ、カオリとも読むんだよー?」
そう言って自分の椅子に貼られた名前のシールを指差した。
「そうなんだ。おそろいだね」
思い切りにこやかに笑ってやった。
頼むからもう前を向いてほしい。
すると郁という女の子は
目を丸くしてあたしをじっとみた。
「やっば。香織ちゃんの愛想笑いプロ級じゃん!
どうやったらそんなにわざとらしく笑えるのー?めっちゃ知りたーい!」

