ありがとう


自分には両親もいて、1人暮らしをしている兄もいる。

環境がどうであれ、みんな確かに生きている。

それなのに自分こそが世界一苦しんでいるような感覚に陥っていた。

彼は自分が何とも愚かに感じた。

そして責めた。

耐えきれなくなって、欄干に向かってきつく握った拳を思い切り振り抜いた。

腐った木製のそれは、彼の拳にいくつもの刺を残して無惨に折れ、荒波の中に吸い込まれていった。

美咲のあの笑顔は、耐えきれないほどの深すぎる悲しみの上に成り立っていたのだ。

辛さから無理やり逃れるための、精一杯の笑顔だったのだ。

彼が少し疑問に感じていた、どこか寂しげに見えた笑顔の答えが出た。