「よく覚えてないがな、10年くらいは経ってんじゃねえかな。妻も娘もいたんだが、ある日突然いなくなっちまってな。あのときは死のうとしたほど辛かったが、まあ今となっちゃただの昔話さ」
あまりにも重い内容とは裏腹に、やけに楽しそうに笑っているヒゲをみて、彼もまた苦笑した。
「そう…だったんですか」
僕は無理に上げた口角を保てなくなり、そのまま俯いた。
「お兄さんが気にすることじゃねえよ。妻と娘のことは今でも愛しているが、2人が幸せで無事に暮らしているなら、俺はそれで幸せだからな」
それにほらな…と言葉を続けようとしたとき、「ヒゲさーん!!」とガラガラの声の男と、そのすぐ後ろに2人続いて近づいてきた。
