ありがとう


米粒1つ残さずに食べきると同時に、男がペットボトルに汲んだ水を差し出してきた。

彼はそれを奪うように受けとると、慌ててキャップを外し、一気に飲み干した。

ふうーっと溜め息をついてから、少し気持ちが悪くなった体を落ち着かせると、男に質問しようとした。

「あの…」
と言いかけたところでまた遮られた。

「親しき仲にも礼儀あり。親しくなければ尚更だ」

ポカンとしている彼を見て続けて言った。

「人によくしてもらったらまずはありがとうだ。いいな?」

相変わらず鋭利で、しかしどこか優しさのこもった口調だった。