ありがとう


黒い何かはいつの間にか巨大な手のようなものに姿を変え、そのまま彼の足を掴んだ。

それと同時に派手に転んだが、死に物狂いで暴れて脱け出すと、がむしゃらに逃走を続けた。

響く声に比例して黒の者の姿はますます巨大なものに変わっていった。

そして恐ろしいほどの速度で迫ってきた。

彼は恐怖のあまり何度も吐いた。

それでも足をとめることなく、掴まれては暴れて逃げ続けた。

しかし膨れ上がった黒の者は白い空間そのものを食いつくしていた。

彼の背後から全ての光が消えていった。

0が1を飲み込んでいた。

無数の腕が物凄い速さで襲いかかってきた。

もう無理だ、と後頭部に手をあててうずくまると同時に、白の世界から一切の光が消えた。