ここにはアタシぐらいしか来ない。


音楽聴きながら、柵にもたれ掛かる。


小学校の時から、屋上はアタシが一番好きな場所だった。






自分だけの空間のようで、完全に自分の世界に入っていた。


すると、いきなり後ろから抱きつかれる。


すぐさま振り返り、身体を引き離す。



そこに立っていたのは初めて見る男だった。


長身ではないが、スラリとスタイルも良く、顔立ちも爽やかでいかにもモテそうな顔をしている。

綺麗な茶髪で軽くパーマがかかっている。


『君が噂の人か。』
顔に似合わず、低めのハスキーボイス。


引き離したときにとれた、イヤホンをまた耳にいれる。


彼はその手を止めて、
『自己紹介だけはさせてよ。』
と笑う。

笑うとベビーフェイス全開だった。

アタシはしょうがなく、イヤホンを外しながら、
『なに?』
と言った。


『クールだね。噂通りだ。俺、風間愛斗。(よしと)』と優貴に似たイタズラな笑顔で笑う。


アタシは
『あ、そ。』と軽く答えて、屋上の入り口に向かう。


『ねぇ、君、名前は?』と彼は言うが、アタシは無視してドアに手をかける。

『聞いてんだけど。答えてくれない?』
彼はアタシの腕をつかむ。

『答える必要ないでしょ。てか、腕、放してくれる?』と彼を見ると、複雑な顔つきですんなり腕を放す。


『結構イジワルなんだ。君。』
と彼は笑う。


アタシはなにも聞かなかったように、屋上を出ていった。


静まり返った廊下にアタシの靴音が響く。


2年A組。

ドアを開け、平然と席についた。

『姫城。今までどこにいたんだ。とっくに授業は始まってるぞ。』
担任は声を荒げる。

『そのくらい知ってます。』
とアタシが答えると、担任は呆れたように、授業に戻った。


隣には優貴が居眠りしていて、寝息の音が聞こえる。

その寝顔は綺麗で、透き通るような白い肌だった。


授業の終わりのチャイムと同時に優貴が目を覚ます。


アタシの顔を見て、優貴は
『由月!?来たのか。待ってたんだぜ。』
寝起きとは思えないほどの笑顔だった。