私が「うん」と頷くと、「家の人には遅くなるって言っておけよ」


と言われた。

「はい」と言って制服のポケットを探ったけど、私の携帯がない。

ああ、そうか。携帯はバッグに入れたんだった。バッグはトランクの中だから、後で電話しよう。

そう思ったんだけど……


「携帯ないのか?」

と柏木君に言われ、

「うん、バッグの中だった」

と言うと、柏木君は上着の胸ポケットに手を入れると、黒い携帯を取り出した。そしてそれを私に差し出し、


「これ使えよ」

と言った。

私は「うん」と言いながら柏木君の携帯を受け取ろうとしたんだけど、


「使い方、分からないから……」

と言った。柏木君の携帯はスマホで、私はスマホを使った事がなかったから。


「番号は?」

「え?」

「おまえが掛けたい番号」

「あ、えっと……」


私はかろうじて覚えていた母の携帯の番号を柏木君に告げた。


その時気付いたけど、柏木君の私に対する言葉遣いが変わっていた。

今までは私の事をたしか“あんた”とか呼んでたのに、今は“おまえ”って言ってる。


乱暴な言葉遣いだけど、嫌ではなかった。柏木君との距離が、縮んだような気がして……