「隼人さん、どうして……」


と本庄さんが言うと、柏木君は間髪を入れずに、

「通り道ですから」

と言い、本庄さんはムッとしたようだったけど、何も言い返さなかった。


この時、柏木君の言葉に変だなと気づくべきだったんだけど、色々な事があったせいか、私はそれに気づかなかった。



黒崎さんの運転で、車は静かに走り出した。

私は柏木君と本庄さんに挟まれ、所在なく俯いていた。


すると体のあちこちの痛みと共に、佐藤君達に触られた時の気持ち悪さを思い出し、涙が込み上げ、嗚咽が漏れるのを抑え切れなかった。


そして左の手でスカートをきつく握り締めていたら、その拳が何か温かいものに包まれたのを感じた。


そこに目をやると、柏木君が私の手を握ってくれていた。

そっと顔を上げて柏木君を見たら、彼はそっぽを向き、窓から外を眺めているようだった。


でも、手はずっと私の手を、握ってくれていた。