「バッグは後ろのトランクに入れたから」


「あ、ありがとうございます」


スーツの男の人がカチャッとドアを閉めると、「この子、病院に連れて行くの?」と本庄さんが柏木君へ言った。


「うーん、どうする?」


と柏木君は私に聞いてきたので、

「いいえ、大丈夫です」

と私は答えた。

体のあちこちが痛むけど、病院へ行くほど酷くはないと思うし、それよりも、一刻も早く家に帰りたかったから。


「そう? じゃあお宅まで送って差し上げますわ」

と本庄さんは言い、

「すみません……」

と、私は本庄さんに頭を下げた。


スーツの男の人は運転手さんだったみたいで、車の運転席に乗り込んで来た。

「あなたのお宅はどこかしら?」

と本庄さんに聞かれ、私の家の住所を運転手さんにも聞こえるように言おうと、前に身を乗り出したら、


「黒崎さん、本庄邸へ行ってください」

と柏木君は言った。