学校が終われば毎日、花音の所へ通った。


花音は立とうとしない。


オレも立たせるための催促はしない。


それはおばさんも同じで、あれから1ヶ月以上経った梅雨のこの季節、気分転換に車椅子を外に出す事も少なくなっていた。


「翔くんっ!いらっしゃい!」


「おじゃまします」


車椅子を器用に操り、オレを花音の部屋へ誘う。


「ママー!アレ、持ってきてぇ?」


「ハイハイ」


キッチンで返事をするおばさんの声を聞いて、花音が笑う。


「アレ、って?」


「フフッ♪あのね、今日はねっ!」


「お待たせ。コレは花音に渡しておくわね。今、アイスティー持って来るから」


おばさんが渡したのは、白い箱。


…ケーキ?


花音の誕生日は、確か冬。


何の記念日だ…?


テーブルにアイスティーを置くと、おばさんは、


「ママ、買い物に出掛けるから、翔くん、ごゆっくりね」


と言って、部屋のドアを閉めた。