にわかに信じられない話だ。ロンドは驚いて目を見張る。
「そうだったんですか!? 確かにハミル様が教皇にふさわしくないと言ったら、誰も教皇になんて……」
「ありがとうロンド。でも未だに私は、自分が教皇にふさわしいとは思っていないんですよ。だって――」
ふっ、とハミルはロンドに視線を合わせてから、もう一度マテリアを見た。
まぶしそうに目を細めながら。
「すべての人々の幸せを祈るよりも、もっと身近な人と一緒にいたかった」
僧侶の身である以上、すべての者へ分け隔てなく接することが求められる。
だからライラム教では特別な相手を作ることを、原則では禁止している。
特に百年前は、今よりも厳しかったことが文献で書かれていた。
恋人はおろか、友人や家族とも懇意にすることはできなかったと。
教皇でなければ、僧侶を辞めて、新たな道を歩くこともできるだろうが……ロンドは目を伏せながら考える。
(今も辛いんだろうな、ハミル様。本当はマテリア様と一緒にいたいのに、僕の後見人になってしまって……)
明らかに自分がハミルの重荷になっている。
申し訳なくて、まだ未熟な自分が悔しくて、ロンドは目を固くつむった。
(ハミル様に頼りきっていられない。早く僕が一人で、教皇の責務をこなせるようにならないと)
彼を立派な先人だと、甘えちゃいけない。
ロンドが瞼を開いて顔を上げると、ハミルはいつも通りの微笑を浮かべていた。
「話が逸れましたね。続きを進め――」
「あの、ハミル様!」
思わずロンドは、ハミルの話を止める。それから一度だけ息を呑み、心を引き締める。
「ハミル様、四年……いえ、三年我慢していただけますか?」
「ロンド? それは一体……」
「僕が一人前になって教皇になれば、ハミル様はお役目を終えます。そのときが来たら、ハミル様の好きな道を選んでください。このまま僧侶を続けても、僧侶を辞めても……想っている人のところに行っても、僕が力添えしますから」
意表を突かれたのか、ハミルの目が大きく見開かれる。
「……ありがとう」
ハミルはどこか戸惑ったような、でも嬉しそうな笑みを浮かべる。
ほんの少しだけ、ロンドは彼の素顔を見た気がした。


