「ハミル殿、今なんと?」

 辺りが暗くなり、ひときわ明るい星が街の頭上でまたたく頃。
 マテリアたちが宿に帰ってすぐ、ハミルが教皇ヴィバレイへ進言した。

 二人の少し後ろでロンドは成り行きを見守る。
 今日は人が多く集まって疲れたせいか、ヴィバレイの機嫌が悪そうだ。目つきが鋭くなっている。

 自分だったら怖くて何も言い出せなくなるのに、ハミルは平然と応じている。
 見ているロンドのほうが緊張していた。

「ええ、明後日にロンドを連れて、山に薬草を採りに行きたいと思います」

「なぜそのようなことを……」

「百年前、教会では薬草を扱い、人々の病やケガを治療していました。しかし、聞けば今は法力ばかりに頼り、扱っている薬草は少ないとのこと。法術に頼るばかりでは、誰のためにもなりません」

 精霊へ祈りを捧げるように胸元で手を組み、ハミルは軽く目を閉じる。

「教会の発展を望むなら、むやみに奇跡を見せるのは得策ではありません。まずは次期教皇であるロンドに薬草の知識を教え、ほかの者の手本となっていただきます」

 ハミルの言い分に、ヴィバレイは「ううむ」とつぶやいた。

「話はわかったが、せっかくの機会。ほかの僧侶も連れていくべきだろう」

「いえ……元教皇として、ロンドに教えたいこともあります。今回は遠慮してもらえませんか?」

 見た目によらずハミルの押しは強い。
 ヴィバレイは口髭に手を置き、くぐもったうなり声を出す。