永劫の罪人 光の咎人

「どうしたんだ?」

「教会で百年前の教皇が生き返ったらしい。これからパレードで、ここを通るみたいなんだ。でも、どんな人だったか思い出せなくて……」

「ふーん。これから前を通るなら、ちょうどいいじゃねぇか。顔を拝めば思い出せるだろ」
「それもそうか」

 素っ気ない口ぶりとは裏腹に、マテリアは窓枠に腰かけ、食い入るように通りを見つめる。
 人々の歓声が、左手から聞こえてきた。

「あ、来たみたいだな」

 早く顔を見たくて、マテリアは首を伸ばし、片手を窓枠に引っかけて体をギリギリまで外へ出す。

「馬鹿! そんなに出るな、落ちるだろうが」

 ビクターがあわててマテリアの腰を引き寄せ、しっかり体を固定してきた。
 ムッとマテリアが目をすわらせると、ビクターは呆れ顔でこちらをのぞきこむ。

「マテリア、そんなにヨボヨボ白髭じいさんに会いたいか?」

「いやいや、それはさらに前の教皇。じいさんではなかったよ」

 これでもかとマテリアは首を振る。ビクターは「はいはい」と気のない相づちを打ち、マテリアと一緒に通りを眺めた。

 しばらくして、通りの向こうから馬車が現れる。人々の声が一段と大きくなった。

 マテリアは目を細めて、通りの真ん中を進んでくる馬車を見る。

「ん? あれは……」

 まだ遠くでよく見えないが、天蓋の外された馬車に二人乗っているのがわかる。
 一人は銀色の長髪の青年。宿とは反対側の通りを向き、手を振っている。

 もう一人は小柄で髪の短い少年……うつむいて顔は見えなくとも、あれがロンドだとわかる。
 ビクターもロンドに気づき、気の毒そうな声を出した。

「ロンドの奴、かわいそうになあ。緊張して真っ赤になってやがる」

「こういうの苦手そうだもんな、ロンドは……うーっ、さっきから百年前の教皇が、向こう側ばっかり見て、こっちに顔を見せないな」

 馬車はもう少しで宿屋の前を通りすぎる。まだ百年前の教皇は、マテリアに頭しか見せていない。

「おーい、こっちにも顔を向けてくれよ!」

 これだけの人だ、自分の声なんか届かないだろう。期待せずにマテリアは声を張り上げる。