永劫の罪人 光の咎人

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 ダットの街に訪れた闇を、月が淡い光で優しく包みこんでいた。

 宿屋のカーテン越しにも、月はおぼろげに部屋へ光を送る。
 瞼を閉じているのに、マテリアの視界がぼんやり白ける。

(……眠れない)

 体は疲れている。なのに、引いては押し寄せる思考のさざ波が、眠気を感じた途端に追い出してしまう。

 頭に浮かぶのは、昼間のことばかり。

(何だったんだ、あれは……剣を振るうことが気持ち悪いなんて)

 まだ記憶は完全に戻っていないが、剣を振るうのは楽しかったはず。
 ただ剣で遊ぶだけじゃなく、狩りで獣の命を奪ったこともある。
 昔はそれが当たり前だと思っていたのに……今は剣が何かを傷つけ、命を奪うと考えただけで吐き気がする。

 嫌悪している、大好きだった剣を。
 こんな気持ち、知らない。

 けれど、これから百年経ったこの世界で生きなければならない。
 今さら昔に戻りたいと言っても、無理な話。

(でも……こんな自分、知らない)

 寝返りをうち、マテリアは月の微光に背を向ける。

 いつの間にか目にたまっていた涙が、頬に流れた。
 マテリアはあわてて涙をぬぐい、息苦しくなった鼻を、ズッとすする。

 隣でベッドがきしみ、布団のめくれる音がした。

「あーあー。やっぱり昼間のこと、吹っ切れてなかったな」

 ぎちりと、もう一度ベッドが鳴り、足音が二歩。
 マテリアが目を開けると、ビクターが枕元に立っていた。

 部屋の中は薄暗かったが、闇に慣れたマテリアの目は、ビクターの顔をしっかりと映す。
 いつも通りの笑みを浮かべた顔だが、心なしか表情は柔らかい。

 体を起こしながら、みっともない顔は見せられないと、マテリアはしきりに顔をぬぐう。

「すまないな、起こしてしまって」

「隣で女の子に泣かれりゃ、男だったら誰でも起きるって。そして慰めるのがお約束。気にすんな」