村で祭事の儀式を済ませ、ダットの街に帰ってきたのは、山際へ夕日が沈みきったばかりの頃だった。
山賊に会わなければ、もっと明るいうちに教会へ戻れたのだが……疲れた体を引きずり、ロンドは愛馬を小屋につなげる。
昼間のマテリアを思い出し、ロンドは気を重くした。
(マテリア様、辛そうだったな)
山賊を追い払った後、マテリアはダットの街に戻るまで浮かない顔だった。
しかしロンドが馬に乗るよう促しても、「これぐらい何ともないよ」と一蹴するだけで、歩くのをやめなかった。
強い人だと思う。それだけにロンドの心が痛む。
(きっと、あれが秘薬の副作用なんだ。ハミル様もおそらく……僕が秘薬を作ったせいで……)
もっと副作用のことがわかれば、彼女たちの力になれるだろうか。
だが、ライラム教の経典にも、ヴィバレイからの口伝でも、副作用の詳細はなかった。
どうすればいいんだろう。
胸が締めつけられ、ロンドは息苦しさに思わず唇をかむ。
心配そうに、愛馬がロンドへ鼻をこすりつけた。
「……ありがとう。僕は大丈夫だよ」
首をなでて飼葉を与えると、ロンドは愛馬に背を向けて小屋から出ようとする。
そのとき、中庭にある大樹の下で、ハミルのたたずむ姿を見つけた。
薄い闇がハミルの姿をぼかしていたが、それでも彼の麗しさはハッキリとわかる。
ただ、その優美な顔は物憂げで、寂しそうに見えた。
「ハミル様、どうされましたか?」
ロンドが声をかけると、ハミルはゆっくり顔を向けて微笑む。あっという間に彼が漂わせていた陰は消える。


