永劫の罪人 光の咎人

「落ちつけ、落ちつけ。まずは息を深く吸って、ゆっくり吐いていくんだ」

 ビクターは赤子をあやすように優しく彼女の背をなでる。
 ロンドとガストが駆けつけると、マテリアの背はしばらく上下し、次第に落ちつきを取り戻していた。

 身を屈めて、ロンドはマテリアと顔を合わせる。
 あれだけ激しい動きをしたのに、彼女の顔色は白い。

「大丈夫ですか、マテリア様。一体何が?」

 こちらの問いかけに、マテリアは力なく答えた。

「剣を振るっていたら、胸がだんだん気持ち悪くなって……昔は剣を振るのが好きだったのに、今はすごく辛いんだ。何かが昔と違うんだ。こんなこと、今までなかったのに……」

 マテリアの弱々しい声に、ロンドは息を引く。

「まさか、秘薬の副作用が……」

「……副作用?」

「実は、死人還りの秘薬で生き返った者は、生前よりも悪しき心が宿るとされています。徳の高い者なら、それを抑えることができるそうですが……何か暴れたいとか、悪いことをしたいとか、そんな気持ちはありますか?」

 ビクターの肩越しに、マテリアは気の抜けた瞳でロンドを見る。しばらくして、彼女は眉根を寄せた。

「それはない。さっきは胸が気持ち悪くて、まともじゃなかったけれど……今は早く仕事を終わらせて、休みたい気持ちでいっぱいだよ」

 マテリアは垂れていた腕を上げ、手の平をにぎったり開いたりをくり返す。

「あんな馬鹿力も、昔はなかったのに……ところでビクター、いい加減に離してくれないか? 息が苦しい」

「もういいのか? ちょっと残念」

 名残惜しげにマテリアの頭をなでると、ビクターは腕を下ろして体を離す。
 解放されたマテリアは、元気を出すように勢いよく立ち上がり、気恥ずかしそうに頭をかいた。

「心配かけたな。多分、疲れが出て気持ち悪くなったんだと思う。さっ、また変なヤツが出てこないうちに、村へ行こう」

 今まで以上に明るい声だったが、笑うマテリアの顔は、未だに血の気が戻っていなかった。