「まだ目的地まで距離がありますから、ゆっくり休みましょう」
「ありがとう、少し甘えさせてもらうよ」
気づかうロンドに笑顔を返し、マテリアは「そういえば」と言葉をつなげる。
「あんまりゆっくりしてると、山賊に襲われるんじゃないか? 百年前はこのあたりによく出没して、子供の頃から遊びついでに撃退してたな」
「何だぁ、その嫌な遊びは。子供なら子供らしく、人形遊びでもしてろよな」
もっともなビクターの意見に、マテリアは不思議そうに目をまたたかせた。
「人形を動かして何が楽しいんだ? 自分の体を動かしたほうが、よっぽど楽しいじゃないか」
マテリアから水筒を戻されたガストが「そういう問題じゃないだろ」とつぶやき、呆れたように大きなため息を吐いた。
まだ知り合って数日だが、マテリアらしい子供時代だ。
ロンドは苦笑しながら、彼女の隣に座る。
「最近もたまに話を聞きますが、そんな頻繁に現れるものではありませ――」
ザッ。
ロンドが話をする最中、一行が通った道から、何かの歩く音がした。
誰もが一瞬体を強張らせ、元来た道を見る。
そこにはつぶらな目をした愛くるしい雌鹿が、藪から現れて道を横断していた。
「何だ、脅かしやがって。まあ今どき山賊と言っても、もっと商人やら旅人やらが通る街道に出るからな」
「確かに。この通りで山賊が現れた話は、聞いたことがない」
かなり緊張したのだろう。ビクターに同意しながらも、ガストは細く息を吐き出し、額ににじんだ冷や汗をぬぐった。
「出てこないなら、それでいいんだけど……あれ?」
マテリアが横を向き、調子外れな声を出す。
「なあロンド、人が増えてないか?」
「……え?」
言われてロンドも、彼女と同じほうを向く。
確かに人が増えている。
手に手に剣やナタなどを持った、十数人ほどの男たちだ。


