奥の間へ続く廊下に一歩足を置くと、硬いタイルから、赤い絨毯の優しい感触に変わる。

 アーチ状の天井と、均等に並んだ窓が奥まで続いており、突き当たりに奥の間の入り口が小さく見える。
 横幅のある廊下は広々しており、窓からは手入れされた中庭が見える。荘厳ながらも重苦しさを感じさせない廊下だ。

 扉の近くで待機していた教皇の側近シムが、ロンドへ寄ってくる。

 コシのない灰色の髪。目も、手足も、体全体がやけに細い。気弱な印象を受ける僧侶だが、こちらを見下ろす目はどこか冷ややかだ。

 シムと目を合わせないよう、ロンドはわずかに視線を落とす。妙に緊張して唇が乾いた。

「ロンド様、どうぞ奥の間へ」

 恭しく頭を下げるシムに内心怯えながらも、ロンドは誠意をもって一礼しようとする。

「は、はい、ありがとうございます」

「やめてください! 万が一、壺の中身がこぼれたらどうするんですか!」

 シムの鋭くなった声に、ロンドは身を固める。
 ゆっくり視線を下ろして壺の中を見ると、中の光が傾いて、危うくこぼれそうになっていた。

 思わず「すみません」とシムに再び頭を下げることを何とかとどまり、ロンドは慎重な足取りで廊下を歩きだした。