(……あったかい)

 まどろんだ意識の中。
 体を取り巻く温もりが気持ちよくて、マテリアはもっと温まろうと体を丸める。

(ん? スベスベする?)

 マテリアが脚を動かすと、肌触りの滑らかな布がこすれた。

「よっ、おはようさん」

 知らない男の声。思わずマテリアは目を開ける。
 そこには隣のベッドで腰かけ、にやけ顔で見つめてくる男がいた。

 何だか軽いヤツ、それが第一印象だった。
 顔は決して悪くないのに、漂う空気が三枚目だ。

「アンタ誰?」

 頭はハッキリしてきたが、体はまだ重く、動かすのは面倒だった。マテリアは体を横たえたまま、男をにらんで牽制する。

「オレはビクター。昨日お前さんが勝手に寝ちまったから、オレの世話になってる宿に連れてきたんだ」

 ビクターがわざとらしく頬をふくらませる。
 おどけ通す姿に、マテリアの気はゆるむ。

「昨日?」

 そういえば、とマテリアは思い出してみる。
 言われてみればビクターのほかに、二人の男性と会話した記憶がある。

(コイツと、少年の僧侶と……アスタロの顔をしたヤツ)

 覚えているのは、遠くで友人のアスタロが襲われていたから加勢したこと。
 でも襲われていた相手は、アスタロとは別人だった。ここまでは記憶にある。

 じゃあ、昨日より前は?
 しばらく考えて、考えて――何も浮かばない。

 マテリアの鼓動が大きくなる。

「ここ、どこだ?」

 一瞬、ビクターは意外そうな顔をしたが、「知らなくて当然か」と肩をすくめた。

「ここは元城下街、ダットの宿屋だ」