「……もしかして」

 体をそのままに、マテリアはまだ起き上がっていないビクターへ振り返る。

「なあビクター。我を忘れなければ、化け物にならないんだろ?」

「あ、ああ、そうだ」

 体を起こしながらビクターはうなずく。
 それを見て、マテリアはにやりと笑った。

「つまり我を忘れなければ、力が使えるってことだな。使えるものは何でも使ってやる!」

 いったんマテリアは体を離して拳をにぎると、大きくふりかぶってヴィバレイを殴りつけた。

『ギャアァァッ!』

 悲鳴を上げながら、巨体が後ろへよろめく。
 確かな手応えを得て、マテリアが立て続けに拳を繰り出す。
 心なしか剣を持っていたときよりも活き活きとしていた。

 そんなマテリアの姿を、ビクターは立ち上がりながら険しい目で見つめる。

「早くどうにかしねぇと、マテリアまで化け物に変わっちまう! おいハミル、さっき出した光の槍を出せるか? 今度はオレも一緒に唱える」

 ひと足先に立ち上がっていたハミルは、ヴィバレイを睨んだままうなずく。

「わかっています。こんなことで、マテリアを失いたくありませんから」

 互いを見やってから、二人は声をそろえた。

『天駆ける光の精霊、今ここに、その存在の徴を見せたまえ。穢れにまみれた罪人へ、天罰の雷を』

 前よりも大きく、数も多くなった光球がヴィバレイを囲む。

 全てが細く伸び――槍となって一気にヴィバレイへ飛ぶ。
 光が突き刺さったところが、火傷したように赤くただれていく。

 ついに巨体が横倒しになる。ひときわ大きく床が震えた。
 身を横たえたまま、ヴィバレイは痛みにのたうち回り、触手を振り回す。