こちらにとっても都合はいい。
 ハミルは薄く笑みを浮かべた。

「ヴィバレイ様を殺したのは、私を襲撃した賊……ビクターという男です。今すぐ警護隊を集め、彼を捕らえましょう。人質の少女も必ず救出してください」

「はい、今すぐに」

 満足そうにシムがうなずき、廊下へ出ていく。

 なんて浅ましい男なのだろうか。
 しかし、それを知った上で利用しようとしている自分は、もっと浅ましい。

 己に呆れて、思わず息をつく。
 ハミルは表情を険しくしてうつむいた。

(早くマテリアとビクターを離さないと……目覚めたらビクターと逃げてしまう)

 真実を知った今、もうマテリアは自分と一緒にいたいとは思わないだろう。
 ビクターが誘えば、ダットの街から逃げ出すのは目に見えている。

 だから、せめてマテリアからビクターを離したい。

 こちらが手を出せないところへ彼女が逃げるぐらいなら、憎まれながらでもマテリアを縛りつけ、手元に置いたほうがマシだ。

 廊下からいくつもの足音が近づいてくる。
 ハミルは頭を上げ、間もなく到着するだろう警護隊を迎えるため、偽りの涙を流して彼らを待った。