「小さい頃は、君と一緒にいられるだけで嬉しかった。でも、いつからだろう。満足できなくなったのは」
ハミルはマテリアの額に、己の額を重ねる。
昔と変わらず、彼女からは日向の匂いがした。
「すべてを捨てて、君とともに生きたい。心からそう思っていたんだけどね」
ずっと次期教皇の肩書きから逃げたかった。
けれど周囲の期待が強すぎて、逃げ出せなかった。
そして前教皇が亡くなり、逃げ場を失った。
マテリアからも、教皇への道を示された。
二人を別つ道だと知っていながら。
自分の中で、何かが狂った。
「教皇になってから、君を求める気持ちがさらに強くなったんだよ。もう耐えられなかった……だから私は国を乱し、教会を壊そうとしたんだ」
そのために王をそそのかし、国の腐敗を進めた。
まさかその途中で、マテリアに殺されるとは思わなかったが……。
皮肉なことに、百年がすぎて国は形を変えたが、教会は未だに残っている。
もう誰にも邪魔はさせない。
ロンドは三年経って成人したら、自分を自由にしてくれると言った。
だが、ヴィバレイを始めとするほかの僧侶たちが、それをよしとするはずがない。
確実に彼女を手にするために、邪魔なものは排除する。
教会はもちろんだが、まず先に――。
「マテリア……私の望みはただひとつ、君の隣にいること。別の人間が君の隣にいるのは、我慢できない」
頭を上げると、ハミルはもう一度マテリアの頬をなでた。
スッ――。背後からハミルの頬へ、剣が並んだ。


