「早瀬さんは会津で有名な剣客です。僕は物心
付いた時から知っていました」

「俺も、噂を聞いていた」


犬山も氷上も、早瀬がきっかけで会津藩士に
なりたいと思ったのだ。

凜は改めて自分の師匠を誇りに思い、続けて
口を開いた。


「ずっと京にいたし、江戸生まれの薫が知らな
いのも無理はないわ」


それを聞いて宮部は首を傾げる。


「じゃあ、今はどこに?」

「さぁ」


サラッと答えた凜に、脱力感を覚えた。

「何だ、知らないのか」と呟いた宮部に、凜はム
ッとして紡ぎ出す。


「各地を回っているのよ。ずっと同じ場所に留
まっている訳ではないから、分からないのよ」


それを聞いて宮部は「へぇ…」と呟く。

早瀬は言わば、凜に松平の護衛を託して各地
に赴いているのだ。


「でも、何であちこち回ってるの?」

「お仕事ですよ」


今度は犬山が答えて、ニッコリ笑った。