『———泣くな。こはる』



あの優しい声と言葉が、頭から離れない。




「———はる...。

春...。


こはる!」



急に耳に届いた声。


はっ、と意識を戻す。



「こはるっ、時間!」



沙織の言葉で自分が何をすべきか思い出す。



「ああっ、茶碗蒸し!」


こっちじゃなくて...と咄嗟に利き手の右を出そうとして引っ込める。

ミトンをはめていた左手を伸ばし、蓋の取っ手をつかむ。


何とか間に合ったのか、見た目は綺麗。



「よかったあ...」


ほっと一息をついたのもつかの間、左手で掴んでいた熱々の蓋に右手が触れる。



「あっつうっ!!」


つい手を離し、蓋が落ちた音が家庭科室に響く。