「あ、うん。ありがとう」



ゆっくりとわたしを引き寄せていた腕が離れる。



とくん、と自分の心臓の鼓動が聞こえる。



自転車のベルの音が耳から離れない。



つい足が止まってしまい、坂口くんと距離ができる。



「何してんだ。行くぞ」



ポケットに手を突っ込んだまま、気だるそうに尋ねる彼。



...わたしのドキドキも知らないで...!



「あっ、おい!」



悔しいから走って追い抜く。



「坂口くんのばーっか!」



くるりと振り向き、近所迷惑も気にせずに叫ぶ。



その後追いかけっこになり、捕まった。


彼なりの腹いせだろうか。


晩はみっちりと裁縫のしごきを受けた。



「アホ! なんで玉留めができないんだよ!」


「うぇーんっ!」