「魔法には、ロマバークのように自分の命と引き換えに発動させるものがある」
フェンが落ち着いてから、旅人は話し始めた。
フェンは泣き止んでさえ、旅人から離れようとはしなかった。
もし、離れてしまったら、痛々しい左手を見ることになってしまうと思ったからだ。
「犬死なんかしないさ、なぁ?俺は、最後にとっておきの魔法を発動させる」
「とっておき、ですか?」
「ああ、俺のマナ全てを使い、お前に託す」
「託す?」
「ああ、3女神の一人、慈愛のな。慈愛の盟約という魔法だ」
「ほお、人間。そんな魔法まで使えたのか」
そばで二人の様子を見ていたランジェは感心したように言った。
「それは……どんな魔法なんですか?」
「お前を守る魔法だ。約束を残す。お前が必要とするとき、俺が助ける。正確には、俺のマナがな」
「へ?」
「いずれわかる。さあ、もう時間だ、フェン」
「っ!!」
フェンはまた涙腺が潤むのを感じた。
もう乾いたと思っていたのに。
「じゃあな、フェン。リーフェンリア=シャル。俺の名前は、ダンテ=マグナだ。忘れるなよ」
「ダンテ……マグナ」
「そうだ。だがな、それはお前の師匠の名じゃない。フェンと旅した私は、『フェンの師匠』だからな。これだけは譲れん」
「……あはっ。はい、私の師匠」
フェンの笑顔を見た旅人は安心したように瞳を伏せると、全てのマナをフェンに譲渡する魔法を発動させた。
瞬間、辺りが蒼に染まった。