坑内に下がっていた人達が、やって来るのは、大体夕食前である。

炭塵で真っ黒になった体は、おおまか会社の風呂で流して来るが

今度は、本格的に入りに来るのである。

この時、小さな子供のいる人は

子供の手を引いたり、肩車なんかでやって来る。

額に両手を置かせているが、もし外れて後ろにのけ反っても

しっかりと両足をつかんでいるので、大丈夫である。

その坑夫達が風呂に来て、共通してやる事があった。

それは、タオルの先っちょを、コヨリみたいに細くして

鼻の穴に差し込んで、きれいに掃除をするのだが

そのタオルの先は、真っ黒になっていた。

それだけ、坑内の空気は汚いのであろう。

その動作を、子供達も真似ていた。

そして、もっぱら、プロレスか野球の話ばかりしていた。