なんだかとても嫌なことをしてしまったような気分になった。
有希も傷付いただろうけれど、わたしもその言葉を言うのはきつかった。

わたしだって、恋の話をしたい。
友達で盛り上がって、冷やかしながら、お話をしたい。

だけどわたしは、恋した相手が相手だから、無理なの。
苦しい。悔しい。
だけど、言ってしまっては終わり。

わたしの暗い表情に気付いたのか、有希が微笑みかけてくれた。

「気にしないでよ。誰にでも言いたくないこと、あるもん」

まだ会って一日も経っていないけれど、有希はとても偉大な人だと感じた。
だって、さっきまでふさぎ込んでいたわたしを、すぐに元気にさせてくれる。

「有希、ありがとう。これからもよろしくね」

なぜか突然言いたくなって、わたしはそう言った。
有希はしばらく驚いたようにわたしを見つめていたが、段々と三日月形になった。

「もちろん」


その言葉が、帰り道もずっと耳の奥で響いていた。
有希の家とわたしの家は正反対の位置にあって、あいにく一緒に帰れなかったけど、わたしは幸せだった。

家に帰ったら、お兄ちゃんに報告をしよう。
そう心に決めて、わたしはまたアスファルトの道路を踏み締めた。