お兄ちゃんからは微かだが殺気を感じた。
昨日の夜と同じような、ただならぬ雰囲気。

そんな雰囲気が嫌いなわたしは、砕けた言葉をわざと使う。

「なあに」

だけど言った後に、後悔が訪れた。
少しおどけた言い方が気に障ったのだろうか、お兄ちゃんの顔は引き攣るばかり。

「お前……本当に、あんなひどいこと……」

自分の顔が恐怖で強張っていくのを感じた。
わたしがいつなにを仕出かしたのかは知れないけれど、お兄ちゃんがわたしに対してものすごく怒っているということは分かった。

わたしはお兄ちゃんに気迫負けし、言葉を発することもできなくなっていた。
ただバツの悪そうな顔をして、お兄ちゃんの視線を逸らしてみることしかできない。

お兄ちゃんの低い声が、余計にわたしに恐怖を与えた。

「ちょっと待てよ。おれ、二人仲良いとばかり……」

お兄ちゃんが顔を両手で覆った。
そこでやっとお兄ちゃんの話している内容が、理解できた。