そんなとき、後ろで

「そういえばさ、お前好きな人いるんだって?」

思わぬ話題に、わたしは思い切り振り返った。
後ろには、携帯を片手に微笑むお兄ちゃんがいた。

有希にメールでもしているのだろうか。
その行為はもっと有希を苦しめるものだというのに。

「誰に聞いたの?」

わたしはあえて素っ気無く答えた。
この話だけは、お兄ちゃんとしたくなかった。
わたしは手を組みながら、お兄ちゃんの返事を待つ。

「有希だよ。ほら、昨日来てたじゃん。あのとき、お前の話題が出てな」

どくり、どくり。
そんなわたしの胸の音が聞こえたような気がした。

「なあ、教えろよ。どんなやつなんだ? お兄ちゃんに秘密で付き合っちゃ駄目だぞぉ」

その胸の音は段々とひどくなり、わたしを唸らすような大音量となる。
そして、わたしの中の何かが爆発する。

「五月蝿い!」

気付けばわたしはソファから立ち上がって、お兄ちゃんに叫びかかっていた。
お兄ちゃんは面食らったような顔をしている。

気付いたときにはもう遅い。
いつもこの展開だ。
わたしはしまったという後悔に襲われる。

だけど、怒りは抜けない。

まるで今のわたしは、今日の有希みたいだと他人事のように思った。