眠い。とにかく、眠かった。
入学式の記憶なんてものはなく、やっと目が覚めたのは見慣れない教室での自己紹介のときだった。

「ええっと、清水美沙です。東中から来ました。趣味は読書で、運動が大の苦手です。気軽に声かけてください」

ぼけた頭を駆使して、適当に自己紹介をした。
席に着いた瞬間、なんて冴えない奴なんだろうと後悔した。趣味は読書なんて近寄り難いイメージ作ってしまうし、もう少し気の利いた自己紹介はできなかったのだろうか。

そんなことを考えて落胆していると、隣から可愛らしい声がした。

「清水、さんだよね? あたし、笹山有希っていうの。よろしくね」

驚いて振り向くと、声のイメージとぴったりな可憐な少女がいた。
大人びた喋り方に、ふんわりとした髪。思わず見惚れてしまったほどだ。

「あ、うん! よろしくね? 普通に美沙って呼んでいいから」

そんな子に話しかけられて、わたしはさっきの面影なんてないくらいの笑顔でそう言った。
同じ中学の子がいなかったから、友達ができるか心配だったのだ。
だからなおさら、嬉しかった。

「それじゃあ、あたしのことは有希って呼んでね。よろしく、美沙」

ふんわりとした微笑みを浮かべ、有希はそう言った。
わたしは言葉に表せないほどの感謝を込めて、有希に笑いかけた。