慣れない教室の扉は、重かった。

「美沙ちゃんおはよう。あれ、目赤いけど大丈夫?」
「えーっと……」
「澄美だよ、澄美」
「ああ、ごめん。ちょっと家出るとき親と喧嘩しちゃってね」
「冷やしてから来なって。男子にからかわれるよ?」

慣れ親しんだとまではいわないが、意外にクラスの人たちと仲良くなれたとは思う。
あの自己紹介をしたときには、もう終わったと思ったが、意外にうけたらしい。

「おっはよ! あれ、なんかテンション低い?」
「うん、実は。あんま気にしないで」

席に着くと、昨日と変わらない笑顔で有希が迎えてくれた。
だけど確実に昨日とは違う。
わたしの気持ちは、ひどいほどに落ち込んでいた。

「そんな……気になるよ」
「大したことじゃないって」

お兄ちゃんに彼女ができたことがショックで泣いたなんて言ったら、笑われるに決まっている。
わたしは有希にそう言うと、鞄から新しい教科書を取り出した。

一つが嫌になると、全てに伝染し、全てが嫌になる。

新しい学校。新しいクラスメート。
全てが新しい。

楽しみにしていたけれど、なぜだか今はそんな気分になれなかった。