『育ててもらってるんだから逆らってはいけないの』 声の主は即座に答えをくれた。 優しく語りかけてきた親切心は、運転している女に当てはまらない。 男の子は声の主の正体をつきとめようと頭を捻るが、見当がつかない。 いままで誰と会話してきたのか思い浮かんでくる顔がない。 記憶を辿っても、下水道で女と会った過去より遡れない。 目を瞑り、頭の中に赤い本をもう一度思い浮かべてみる。 ページを捲ると、今度は全て白紙で、パタンと呆気なく本を閉じるしかなかった。