吸血鬼は淫らな舞台を見る   episode ι (エピソード・イオタ)



長さは数十メートルくらいなのだが、取り締まる警察官や警備員などの姿はない。


ただ、トンネルを抜けたとき男の子が振り返ると、工事中の立て看板が見え『命を捨てる覚悟があるなら入れ!』とだけ記されていた。


女の荒い運転に拍車がかかり、交差点の信号が黄色でもお構いなしに突き切り、カーブでも減速することなく、タイヤを削っていく。


乱暴な運転に慣れてきたのは、片側二車線の広い道路から車一台がやっと通れる細い山道に車が差し掛かかった頃で、民家が存在しない寂しい土地。


右側は斜面地に木々が生えて葉や枝がフロントガラスを叩き、左を見れば錆びたガードレールの下は崖。