吸血鬼は淫らな舞台を見る   episode ι (エピソード・イオタ)



「あっちから変な声が聞こえるんだ」


“おばさんは敵!”という危険信号が脳内から出なかったことで、逃げてきた方向を指さす。


「また説明しなきゃいけないのね」


女が懐中電灯の肩叩きを再開させる。


「あ、やっぱりいい」


女が不機嫌になった気がして、男の子は質問した直後に説明を拒否した。


「少しはお利口さんになったのかしら」


女の口元が若干緩まり、男の子は自分の判断が間違っていなかったことに胸を撫で下ろす。