吸血鬼は淫らな舞台を見る   episode ι (エピソード・イオタ)



「まず、名前を教えてくれないかな」


イオタは腰を下ろしていた舞台の縁から、観客席の方へ飛び下りた。


「私の名前が知りたいの?何度も自己紹介したはずなのに覚えてくれないのね」


「記憶が戻る自信がないんだ」


下水道で女と会った以前の記憶は思い出せないが、何度も同じことを訊かれたんだろうなとイオタは感じた。


「仕方ないわね。これが最後よ。私の名前はジェーン・ドゥ」


「典型的なアジア系の顔なのにそんな名前なの?」


イオタは顔と名前が一致しないことへの疑問を抱いた。