吸血鬼は淫らな舞台を見る   episode ι (エピソード・イオタ)



「すぐにその黒い化け物を脳内から排除するんだ。そうしないと本物の化け物になってしまう!」


シータが大声を張り上げた。


「化け物になったっていいさ」


イオタが一歩右足を踏み出し、シータしかいない客席に向かって台詞口調で言った。


「イ、イオタ君……」


「ぼくは赤い本に埋め込まれていく知識が増えることで、成長している気がする。君の血を飲んで夢遊病者のように彷徨ったとき、外の世界を見れた。すごく広いよ。血を飲んで、本を読んで、閉じ込められて、あの女の言いなりになるだけの生活は嫌だ!」


誰もいない二階や三階の桟敷席に伝わるように大袈裟な身振り手振りで、イオタはミュージカル俳優を気取った。