「これから経過報告を行います」
片目だけを柱から出して覗くと、女は手のひらサイズの薄くて透明なフィルムに抑揚のない口調で語りかけているところだった。
脳内の赤い本が開き、【グラフェン】という特殊素材の説明と、六角形の網目のように並ぶ炭素原子の平面略図が現れた。
女が手に持っているのはグラフェンという素材でできた通信端末だと暗に教えてくれたが、最新の理科学系の本を読んだ記憶はなかった。
イオタは通信端末の素材より、女の会話に集中した。
隠れている位置からは通信相手の腕らしきものが映っているのを見るのが限界だった。



