「ないよ」 「そう……もし、ぼくのことを聞いてきたら、何も知らないって答えるんだよ」 シーツに皺ができるくらい力強く握り締め、シータは上半身を持ち上げた。 三日月形の長い前髪が顔の左半分を隠す。 「わかった」と、イオタは返事したが、「でも、しつこく迫られたらどうしよう?」などとすぐに弱音を吐いてしまう。 「そうだね、あの女は君を拷問するかもしれない」 シータが前髪を中指で左側の耳のところまでずらし、隠れた左目を出して真面目な顔で言う。